焚き火は、キャンプの「核心」だ。食事をつくり、体を温め、仲間と言葉を交わす。炎の揺らぎを前にすると、不思議と心が解けていく。しかし初心者にとって「火を起こす」という行為は、思いのほかハードルが高い。このガイドでは、失敗しない火起こしの手順をステップごとに、そして「なぜそうするのか」という理由とともに解説する。
EQUIPMENT
まず揃えるべき9つの道具
火起こしは準備が9割。道具が揃っていれば、あとは手順に従うだけで誰でも安定した火を育てられる。
⚠️ 液体着火剤は初心者には非推奨
- 火がついた状態で継ぎ足すと容器に引火する事故が毎年発生している
- 固形タイプは燃焼時間が長く(約5〜8分)、初心者でも安全に扱える
- どうしても火がつかない時の最終手段として、トーチバーナーを携帯すると心強い
MATERIAL
薪の選び方——針葉樹と広葉樹を使い分ける
薪の種類によって、火のつきやすさ・燃焼時間・煙の量はまったく異なる。2種類を正しく組み合わせるのが、焚き火上手への近道だ。
🌲 針葉樹
スギ・ヒノキ・マツ
- 繊維が粗く空気を含む
- 着火しやすい
- 火起こし初期に最適
- やや煙が出やすい
- 火持ちは短め
🌳 広葉樹
クヌギ・ナラ・サクラ
- 密度が高く重い
- 火はつきにくい
- 火力が安定する
- 煙が少ない
- 長時間燃え続ける
理想の使い方は「針葉樹で火を起こし、広葉樹で火を育てる」。まず針葉樹に着火して炎を安定させ、十分な熾き(おき)ができたら広葉樹を投入する。キャンプ場で売られている薪は広葉樹が多いため、着火剤や細い枝を別途用意しておくと失敗が少ない。薪の太さも重要で、鉛筆ほどの細枝・親指ほどの中薪・拳サイズの太薪の3種類を事前に揃えておくこと。
SETUP
薪の組み方——「井桁型」が初心者の正解
薪の組み方にはいくつかの流儀があるが、初心者には「井桁型(いげた型)」が最もおすすめだ。漢字の「井」のように薪を交互に積み重ねる方式で、自然に空気の通り道が生まれ、火が広がりやすい。焚き火台の中央に着火剤を置き、細枝を放射状に並べ、中薪を直角に交差させながら3〜4段積み上げる。このとき薪と薪の隙間を「握りこぶし一つ分」残すのが鉄則。詰め込みすぎると酸素が入らず、火はすぐに消えてしまう。
STEPS
火起こしの手順——5ステップで確実に
焚き火台と防火シートをセットする
風上に背を向け、テントや木から3m以上離れた場所に設置する。焚き火台の下には必ず防火シートを敷く。直火禁止のキャンプ場がほとんどだが、防火シートがあれば芝生を守れるうえに灰の回収も楽になる。
💡 設置前にキャンプ場の焚き火ルールを確認すること
焚き付け材をすべて手元に並べておく
着火剤・細枝・中薪・太薪を、燃えやすい順に手の届く範囲に並べておく。「次に入れるものが手元にない」という状況が、初心者の最大の失敗原因だ。準備は着火前に完全に終わらせる。
💡 松ぼっくりやスギの枯れ葉は天然の着火剤として優秀
着火剤に火をつけ、細枝を添える
チャッカマンで着火剤に点火し、炎が安定したら細枝を斜めに立てかけていく。ここで大事なのは「じっと我慢」すること。むやみに薪を動かしたり、焦って太い薪を投入すると逆効果。炎を「見守る」気持ちで待つ。
💡 火吹き棒でゆっくり・長く息を吹き込むと着火が安定する
細枝に火がついたら、中薪を追加する
細枝がしっかり燃え始めたことを確認してから、中薪を2〜3本加える。井桁型をキープしながら、空気の通り道を意識した配置に。慌てず一本ずつ追加するのが上手な焚き火師の流儀だ。
💡 白い煙が多く出ているときは薪が湿っている証拠
熾き(おき)ができたら太薪を投入する
中薪が赤く燃え、白煙が収まって「熾き」の状態になったら太薪を追加しても安心だ。熾きは高温状態が長く続き、太い薪にもしっかり火を移してくれる。薪が少なくなったタイミングで1〜2本ずつくべると、長時間安定した焚き火が楽しめる。
💡 太薪は中心に立てかけるようにくべると効率よく燃える
TROUBLE SHOOTING
火が消えそうになったら——3つの対処法
① 火吹き棒で酸素を送り込む
炎が弱まったら、まず火吹き棒の出番。薪の根元に向けて「細く・長く」息を吹き込む。短く強く吹くと灰が舞って周囲に降りかかるため要注意。ロングブレスで安定して空気を送るのがコツだ。
② 細い薪を追加して着火部分を広げる
火が弱いときに太薪を追加するのは逆効果。針葉樹の細枝を数本追加して着火部分を広げてから、改めて中薪・太薪へとつないでいく。「細→中→太」の順番を守ることが最大のコツだ。
③ 薪が湿っていないか確認する
白煙がもうもうと出るのは薪が乾燥していないサイン。雨の後や朝露でぬれた薪はいくら頑張っても火がつきにくい。乾燥した薪をあらかじめ車内やテント内で保管しておくか、キャンプ場で購入した薪を使うのが確実。薪の断面が暗い色をしていたら要注意だ。
SAFETY
後始末と安全——焚き火はここで差がつく
焚き火のマナーは「後始末」で決まる。撤収の2時間前には薪の追加をやめ、残った薪を燃やしきる計画を立てよう。
⚠️ 絶対にやってはいけないこと
- 水をかけて急消火しない ——焚き火台が変形・破損し、水蒸気でやけどの危険がある
- 就寝前に必ず完全消火 ——突風や動物によって焚き火台が倒れ火災になるケースがある
- 燃え残った薪をキャンプ場に放置しない ——灰や炭は灰捨て場へ、または持参したゴミ袋に
- 燃え尽きた灰でも高温が続く ——素手で触れるまで冷ましてから後片付けをする
🔥 FIRE STARTING CHECKLIST
- 焚き火台・防火シートを設置した
- テントや木から3m以上離れている
- 耐熱グローブを着用している
- 細枝・中薪・太薪を手元に並べた
- 着火剤は固形タイプを使っている
- 薪は十分に乾燥している(断面が明るい色)
- 火吹き棒を手元に準備した
- 水入りバケツを近くに置いた
- 撤収2時間前に薪の追加をやめた
- 就寝・撤収前に完全消火を確認した
「たかが火起こし」と思って準備を怠ると、暗くなってから焦ることになる。逆に、正しい順番と道具を揃えておけば、火起こしは難しくない。ゆらめく炎を前に、コーヒーを一杯。そんな夜をあなたも手に入れてほしい。